ズレないケース蓋の設計!FreeCADでリップ(インロー)構造を作る

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「3Dプリンターでケースを作ったけど、蓋を乗せるだけだと横に滑ってズレてしまう……」
「ネジを使わずに、パチンとはまるような精密な蓋を作りたい」
「市販の製品みたいに、段差があってカチッと噛み合う構造はどうやって設計するの?」

電子工作ケースの設計において、ボトム(本体)とトップ(蓋)を組み合わせる際、最も重要なのが「嵌合(かんごう)」の設計です。ただ平らな面同士を合わせるだけでは、少しの衝撃で蓋が外れたり、見た目が安っぽくなったりしてしまいます。

そこで役立つのが「リップ構造(インロー構造)」です。これは、一方に凸、もう一方に凹の段差を設けることで、左右前後のズレを物理的にロックする設計手法です。

この記事では、最新のFreeCAD 1.0.2を使い、本体の形状を正確に引き継いで「絶対にズレない蓋」を作る手順を詳しく解説します。このスキルを習得すれば、あなたの作品のクオリティは一気に「製品レベル」へと引き上げられます!


1. 本体(ボトム)を基準に蓋をスケッチする

精度の高い蓋を作るための鉄則は、「本体の寸法をいちいち測り直さない」ことです。第17回で学んだ「外部参照」を使い、本体の外形線をそのままスケッチに取り込みましょう。

FreeCAD 1.0.2のワークフローでは、まず蓋専用の新しい「ボディー」を作成することから始めます。これにより、本体と蓋を別々の部品として管理でき、3Dプリント時のデータ出力もスムーズになります。

手順解説 (Step-by-Step)

  1. [Part Design] ワークベンチで [ボディーを作成] をクリックし、名前を「Lid」などに変更します。
  2. 本体(ボトム)の「上面(フチの部分)」を選択し、[スケッチを作成] をクリックします。
  3. ツールバーの [外部形状へのリンクを作成](ショートカット X キー)を選択します。
  4. 本体の外周を構成する4つの辺を順にクリックし、マゼンタ色(紫色)の参照線として取り込みます。
  5. [長方形を作成] ツールで四角を描き、4つの角を紫色の参照線の頂点に対して [一致拘束] させます。

💡 ヒント / 注意点
FreeCAD 1.0.2では、外部参照ツールを選択した際、マウスカーソルの横にアイコンが表示されます。辺を正確に捉えると線が赤く強調されるので、確実に「Edge(辺)」を選択できているか確認しましょう。


2. 蓋のベース形状の押し出し

スケッチができたら、蓋に厚みを持たせます。ここで重要なのは、押し出しの「方向」です。

通常、本体の上面を選択してスケッチを描いた場合、そのまま押し出すと本体の内部に向かって(下向きに)形が作られてしまいます。蓋を作る場合は、本体の外側(上向き)へ向かうように設定を調整します。

手順解説 (Step-by-Step)

  1. スケッチ編集を [閉じる] で終了します。
  2. ツールバーの [パッド] をクリックします。
  3. タスクパネルで「長さ」に蓋の厚み(例:2.0mm)を入力します。
  4. もしプレビューで蓋が本体の中に埋もれている場合は、[逆方向 (Reversed)] のチェックを切り替えてください。
  5. [OK] を押して確定します。

これで、本体の上にピッタリと重なる平らな板状の蓋が完成しました。しかし、まだこの状態では横に滑ってしまうため、いよいよ「インロー構造」を追加していきます。


3. ズレ防止の基本「リップ(インロー)」とは

「インロー構造」とは、日本の伝統的な「印籠(いんろう)」が語源で、機械設計では「嵌合(かんごう)によって位置を決める構造」を指します。英語では「Lip and Groove(リップ・アンド・グルーブ)」とも呼ばれます。

今回作成するのは、蓋の裏側に「本体の内壁にぴったりはまる突起」を作る手法です。これにより、蓋を閉めた時に壁同士が重なり、横方向の力がかかってもズレなくなります。

インロー構造を設けるメリット

  • 位置決めの正確さ:ネジを締める際も、あらかじめ位置が固定されるためスムーズに作業できます。
  • 密閉性の向上:重なり合う部分ができることで、中の配線が外から見えにくくなり、埃などの侵入も防げます。
  • 外観の美しさ:本体と蓋の境界線がガタつかず、一本の綺麗なラインに見えるようになります。

産業製品の多くは、この「インロー構造 設計」を基本として組み立てられています。


4. オフセットを使った嵌合部のクリアランス調整

インロー構造を作る際の最大の落とし穴は、「隙間(クリアランス)ゼロ」で設計してしまうことです。第22回でも触れた通り、3Dプリンターには造形誤差があるため、0.2mm程度の「ゆとり」がないと、きつすぎて蓋が入りません。

FreeCAD 1.0.2でこの「ゆとり」を最も簡単に作る方法が、スケッチャーの「オフセット」ツールです。

手順解説 (Step-by-Step)

  1. 蓋の「裏面(本体と接する面)」を選択して [スケッチを作成] をクリックします。
  2. [外部形状へのリンクを作成] (X) で、本体の内壁の辺(4辺)を参照線として取り込みます。
  3. ツールバーの [オフセットを作成] アイコン(ショートカット Ctrl+Shift+O、または1.0.2の新アイコン:二重線のマーク)を選択します。
  4. 取り込んだ参照線(マゼンタ色)をクリックし、マウスを内側へ動かして、一回り小さい四角形を作成します。
  5. 寸法拘束(数式エディタ f(x))を使い、オフセット距離を Spreadsheet.gap(例:0.2mm)に設定します。
  6. さらに内側に、リップの厚み(例:1.5mm)となるもう一つのオフセット線を描きます。
  7. スケッチを [閉じる] し、[パッド] で 2.0mm ほど押し出して、突起(リップ)を完成させます。

この「オフセットによるクリアランス設計」を徹底することで、ヤスリで削ることなく「パチン」と一発でハマる高品質なケースが完成します。


5. 断面表示での噛み合わせチェック

設計が完了したら、印刷前に必ず「断面」を確認しましょう。表面から見ているだけでは気づかない、内部のぶつかり(干渉)を発見するためです。

FreeCAD 1.0.2では、[表示] > [クリッピングプレーン] 機能を活用して、モデルを真っ二つに切った状態で観察することができます。

確認すべきポイント

チェック項目理想の状態修正のヒント
水平方向の隙間全周に 0.2mm 程度の空間があるgap 変数の値を調整
垂直方向の余裕リップの先端が底にぶつかっていないリップの押し出し長さを短くする
角の干渉内側の角同士がぶつかっていないリップの角に小さなフィレットを追加

断面表示を確認して「これならハマる!」という確信が持てたら、設計は成功です。


よくあるトラブルと解決策

Q:オフセットツールを使ったらスケッチが真っ赤になった!
A:これは「過剰拘束」です。1.0.2のオフセット機能は便利ですが、時に不要な水平・垂直拘束を自動で付けてしまうことがあります。画面左下のメッセージ欄にある「冗長な拘束」というリンクをクリックし、不要な拘束を削除しましょう。

Q:3Dプリントしたら蓋が反って浮いてしまう。
A:大きな面積の蓋は冷却時に反りやすいです。インロー構造のリップの高さを 3mm 程度まで高くすると、リップ自体が「梁(はり)」の役割を果たし、蓋の反りを物理的に抑え込む効果も期待できます。


6. まとめ

  • 外部参照 (X) を使って、本体のフチと完全に一致する蓋の下書きを作る。
  • インロー構造を追加することで、ネジなしでもズレない物理的ロックを実現する。
  • オフセットツールとスプレッドシート変数を使い、0.1mm 単位で隙間を管理する。
  • 断面表示での最終確認が、印刷失敗を防ぐプロのルーティン。

これで、外見も機能もプロ仕様のケースが形になってきました。しかし、まだこのままでは「逆さまにすると蓋が落ちてしまう」かもしれません。

次回は、ネジを使わずにパチンと蓋を固定する「スナップフィット設計」の理論について解説します。樹脂の「しなり」を利用した高度な造形に挑戦しましょう。お楽しみに!

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